I did it...
学業専門都市 ヴィル・アルミュールにて。
「なーなー、ホンマに連れ出してよかったん?」
勝手に自分達がアルムを外に連れ出してよかったのかと。
記憶喪失な彼女はここが何処なのか、何をする場所なのか全く知らない。
ただ、やるべきことがあるからと2人にお願いして連れ出してもらっていた。
「しゃーないやん、ここに来たい言うてんやから。おっさんの許可なんか待っとられんわ」
「知らんで、ホンマ。今頃俺ら指名手配犯になっとるかもしれんよ」
「んなアホな。そんなことになるわけ無いわ」
なんて軽く言い合った2人。
先に歩いているアルムにおいつくために、少しだけ早歩きで街の中を歩いていく。
町の人々の合間をすいすいと縫って、彼女の行きたい場所へ向かう。
だが、2人は曲がりなりにもセクレト機関の調査人。
空から見張られていることも、とっくに知っているわけで……。
「……あー、シェルム?」
「んー?」
「めっちゃ警告ウィンドウ届く」
「それは俺もそう」
2人の目の前に現れる、宙を浮いたウィンドウパネル。
そこに記されているのは、司令官システム――この都市担当のマリアネラからの警告文章だった。
警告します。
速やかに彼女と共にセクレト機関へお戻りください。
でないと、本当に手続きが面倒なので。
あなた達も手荒な真似はしたくないでしょう?
――Marianela Velet.
「うおー。マリアさんが面倒言うとるー。でもごめーん、戻れへんの」
……何故?
彼女を連れて戻るだけなのに?
――Marianela Velet.
「俺は女性の頼みを断れん主義やからな!」
ロルフが超自慢げにそう答えると、マリアネラは数分だけ無言になってしまう。
彼から得られる十分な答えが見つからないと気づいたのか、マリアネラはシェルムに同じ質問を投げる。
「コイツ、彼女と2人きりにしたら余計アカンと思うんですけど」
ロルフを擁護するどころか、完全に後ろから突き落とすシェルム。
しかしマリアネラはロルフの普段の行いから、その答えに納得がいっていた。
……それは……そう。
彼をアルムさんと2人きりにしてはいけませんね……。
――Marianela Velet.
「待って!? マリアさんまでなんか納得してるんやけど!?」
「日頃の行いのせい」
「なんで!? 俺いっつもマリアさんにおはよう言うとるだけやん!?」
「絶対それのせいやん。ドン引きされてもしゃーないぞ、それ」
大きなため息をついたシェルム。
いつものことだと頭に浮かぶが、今回に限ってはそれが厄介事になりかけているからなんとも言えない。
結局、マリアネラの説得は不可。
2人に新たな指令を下し任務として行わせることで指名手配を逃れるようにした。
『アルムのやるべきことを探る』。
それが、ロルフとシェルムに与えられた新たな指令。
彼女のやるべきことの詳細を探り、それが益となるか害となるかを見定めよ、と。
これは、猟兵達の秘密の物語。
記録と記憶に残るだけの、小さな物語。
シークレット・テイル