Broken Marionette
「まったく、聞き分けの悪い子だな、あなたは」
「ハッ、誰のしつけのせいだとお思いで?」
2人の男の間では、コントラ・ソールによる攻防が繰り広げられている。
炎が空を覆えば、氷が盾となり。
風が刃となれば、雷が壁を作り。
闇が弾となれば、光が燃やして。
マリネロの街を壊そうとする男、フェルゼン・ガグ・ヴェレット。
マリネロの街を守ろうとする男、スヴェン・ロウ・ヴェレット。
彼らの間に言葉は少ない。
ただ、己の意志を貫くためにコントラ・ソールという剣を振り抜いて戦っている。
そんな2人の戦いを分かつように、桜吹雪が舞う。
その正体は響納・リズが使ったユーベルコード。
対象を眠りへ誘わせ、負傷を回復させるための力。
「……フェルゼン様」
「…………」
リズは事前に聞き及んでいた。
フェルゼンがソール物質を低減させ続け、生きていると。
無くなってしまえば死に至る状態にあると。
どうにか、彼を止めたかった。
夏のあの日、共に過ごした彼がこんな事をするとは思えなくて。
あんなにも優しかった彼が、敵だとは思えなくて。
「たとえ、分かり合えなくても……私達は手を取れると、信じています」
少しでも彼が思い止まってくれるならそれでいい。
桜吹雪も彼の足を止めるために使ったまでだ。
「もし、この桜を乗り越えるというのなら、その時はこの杖で……」
ギュッと、力強く握りしめた手が、杖に力を与える。
……けれど現実というのは、とても残酷だ。
「――運命を受け入れたほうが楽になるぞ?」
桜吹雪に臆すること無く、フェルゼンはまっすぐ歩いてくる。
優雅に、上品に、普段と変わらぬ素振りを見せて。
ただ、いつもと違うのは。
――隠しておいた、重瞳の眼が曝け出されているという点だけ。
これは、猟兵達の秘密の物語。
記録と記憶に残るだけの、小さな物語。
シークレット・テイル